製材所に山積みされた杉皮
杉皮のアップ
繊維状に裁断された樹皮
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かつて、洋ランの培地には、山採りによる国産ミズゴケが使われていました。しかし、今ではそのほとんどが取り尽されてしまっています。まさに自然破壊です。国内のミズゴケが枯渇してしまうと、今度は海外の自然にあるミズゴケを採取し輸入し始めました。現在ではこの輸入ミズゴケが主に使用されています。
国産ミズゴケが枯渇した当時、栃木県の洋ラン生産グループの一つ、日光シンビジウム組合のメンバーは、ミズゴケに代わる培地資材のがないものかと農業試験場に相談を持ち込みました。当時は、洋ランも苗の大量増殖が可能となり、より一層のコストダウンが求められていた時でしたので、できれば地域で産出される安価なもので、安定した量が確保できるものはないものか。ここから、試験場の研究員と組合メンバー等による模索が始まりました。
ある日、研究員の一人が、森林組合の貯木場に水浸しの長大な杉の皮が山積みになっているのを見つけました。森林組合では処分に困っているといいます。しかも、林業が盛んな県内には莫大な量があると教えられました。そのとき、研究員の頭の中にある風景が浮かんできました。
子供の頃、鳥小屋や物置に杉皮が葺かれ、そこによく植物が育っていたこと…。日光の杉並木の杉の大木の枝にはセッコク(デンドロビウム ノビル)が着生していたこと…。
研究員は杉の皮を製材所から貰い、研究所へ持ち帰りました。この杉皮は非常に粗大で、このままではとても植え込み材料として使えるものではありません。そこで根が張りやすいように木バサミで細かく裁断し、さらにハンマーでたたいて繊維状にしてみました。これを使って早速洋ランを栽培してみたところ、思ったとおり育成は良好で素晴らしい花を咲かせました。
しかし、杉皮を繊維状にするのは大変な作業で、これを大量に加工できる技術が必要であると考えました。そこで、県林業試験場(現林業センター)に相談したところ、当時、樹皮から燃料ペレットを製造していた「今市木材開発協同組合(森林資源開発センター)」を紹介されました。組合では、樹皮の新用途開発につながるこの話に賛同し、共同研究をスタートさせました。
ここから、具体的な粉砕技術の研究が始まり、製品化に向け精力的に試験が行われました。同時に加工した杉皮の特性やそれに適した潅水、施肥法を解明し、昭和59年には杉皮を使用した洋ラン栽培法を完成しました。
製品化にあたり、杉の学名クリプトメリアヤポニカをモス状にしたところから「クリプトモス」と名付け商標登録を行い、さらに県と組合により共同で特許も取得いたしました(特許第2046421)。
〜こうして、とある生産者の悩みと小さなアイデアから生まれた種が、環境を思う多くの人たちの情熱の力で実を結び、クリプトモスを誕生させることになりました。〜
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